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2021年10月の記事一覧

学習者の能力を伸ばす教師とは・・・

  医者と教師はどちらも「先生」と呼ばれ、人を相手にした専門職として免許が必要なことから、似ている職業とされてきました。確かに、医者の行う「治療」は、患者を病気や怪我から回復させることであり、教師の行う「指導」は、児童生徒を望ましい姿に変容させることですから、どちらもマイナスの状態を0の状態へ戻すという点では似ています。 
    しかしながら、治療と指導には根本的な違いがあります。それは、治療は0の状態に戻ればそれ以上する必要はなく、ましてやプラスの状態を扱うことなどありません。これに対して指導は、0あるいはプラスの状態をそれ以上に引き上げることが求められます。むしろこちらの役割の方が重要で、「子供の能力やよさを看取り引き出し伸ばす」という教師の指導は、教育には欠かすことができません。
  「発達の最近接領域」というのがあります。旧ソ連の心理学者ヴィゴツキーの提唱した理論のことです。子供が課題を解決できる領域は、自分だけで解決できる領域、外部の支援を受けて解決てきる領域、現在の能力では解決できない領域に分けられます。この中で外部の支援を受けて解決てきる領域を、ヴィゴツキーは発達の最近接領域と言い、そこへのアプローチの重要性を指摘しました。これはまさに0の状態(自分だけで解決できる領域)をプラスの状態(外部の支援を受けて解決てきる領域)に引き上げるという教育の立場から得られた知見にほかなりません
    この理論に従えば、子供の能力を伸ばすためには、その子の発達の最近接領域を見定め、適した課題を課すとともに、必要な支援をしていくことが求められることになります。簡単に言えば、ひとりで解ける課題をどれだけたくさん解かせても、その子の持っている能力を伸ばすことはできませんが、少し助けがあれば解ける課題なら伸ばすことができるということです。この「少し助けがあれば解ける」領域が発達の最近接領域であって、教師の指導には最も重要な領域となります。  
   「学習者の能力を伸ばす教師とは、適切な難易度の目標を設定し、学習者がそれを達成できるように場を整える教師である」と言われています。発達の最近接境域理論は、この言説を裏付ける理論と言えます。ただし、その領域の見定めは容易ではなく、教師の経験や子供理解、そして何よりも深い教材研究が必要なことは言うまでもありません。